店舗内装の榎田潤さんは、現地調査から見積提出までのあいだに1枚の紙を挟みます。書いてあるのは金額ではなく、受けない工事の一覧です。
「営業としては最悪の手順です」と本人も言います。それでも3年続けている理由を聞きました。
断る範囲を先に出すようになったきっかけは。
榎田 厨房の排気を無理に引き受けた現場です。できますと言ってしまって、専門の業者に頼み直して、工期が3週間延びました。施主は怒らなかったんですけど、そのぶん値引きしたので、うちの職人の日当を削ったんですよ。あれが最後です。
紙には何を書いていますか。
榎田 受けない工事が7項目。あとは、うちがやると割高になる工事が4項目です。割高になるほうは、どこに頼めばいいかまで書いています。
頼み先まで書くのは、仕事を渡してしまうことになりませんか。
榎田 なります。でも、そこを書かないと施主が自分で探すので、結局こちらに「この見積どう思いますか」と相談が来る。無償で見積の査定をやるくらいなら、最初から名前を出したほうが早いです。
失注は増えましたか。
榎田 増えました。10件で2件くらいだったのが、今は4件くらい落とします。ただ、落ちる相手が変わったんですよ。金額で選ぶ人が先に抜けていく。
数字で変わったところは。
榎田 着工したあとの追加変更が、月4.2件から0.8件になりました。これは工程表を見れば分かるので、感覚ではないです。あと、紹介が増えました。断った施主から来るんです。あそこは無理なことを無理と言う、と。
受けない工事を書いた紙は、営業資料じゃなくて職人への約束です。断ってあるから、現場でその話が出たときに誰も無理をしなくていい。
