KANOE
縫製の作業場で仕事の進め方を話す二人

インタビュー営業と集客ブランディング会員の声 第10回

最初の社員が、規程を読んでも聞けないこと

規程を整えた会社から、現場では質問が減らないと連絡がありました。私は社会保険労務士として、小さな会社の人を迎える準備や日々の運用を支援しています。必要な文書を整え、内容も説明したつもりでした。

この記事は、サイト構築時のサンプルです。実在の取材に基づくものではありません。

規程が増えても減らない質問

規程を整えた会社から、現場では質問が減らないと連絡がありました。私は社会保険労務士として、小さな会社の人を迎える準備や日々の運用を支援しています。必要な文書を整え、内容も説明したつもりでした。

けれど、経営者が困っていたのは、文書に書かれた制度の質問ばかりではありませんでした。「お客様に、ここまで答えていいですか」「この作業を先にしてもいいですか」。そのたびに確認が来て、自分の仕事が止まるというのです。

最初は、もっと分かりやすい説明を足せばよいと思いました。でも、文書を増やしても、誰がどこまで決めてよいかが見えなければ同じです。制度がそろうことと、新しく入った人が安心して働けることを、一つの話にしていたのだと気づきました。

ひとり目の社員の沈黙

その会社は、創業者が初めて社員を迎えたところでした。経営者は「分からなければ、いつでも聞いて」と伝えていました。でも、その言葉を受け取る側にも事情があります。

社員に話を聞くと、経営者が顧客と電話をしているとき、質問してよいタイミングが分からないそうです。急ぎかどうかも自分では判断できない。同じことを聞けば覚えが悪いと思われそうで、とりあえず待ってしまうことがありました。

創業者が言う「自由にやっていい」は、任せたい気持ちから出た言葉です。でも、任せる範囲がないままでは、自分で決めた後に間違いを指摘される方が怖い。休みの申請方法を知っていても、今日の仕事で何を決めてよいかは分からない。その不安は、規程のページを増やすだけでは消えませんでした。

社員は、質問を後でまとめて聞こうとメモしていました。でも、答えがないと先へ進めない作業も混ざっています。経営者は黙っているから進んでいると思い、社員は邪魔をしないよう待っている。互いに配慮しているのに、仕事が止まる場面がありました。

入社初月を歩いてみる

そこで、入社初月に起こる場面を並べました。朝、何を見れば今日の仕事が分かるか。顧客から予定の変更が来たら、どこまで返事をするか。経営者が不在のとき、誰へ連絡するか。

説明は制度別ではなく、働く順番に置きました。自分で進めてよいこと、確認してから進めること、判断を任せないことを短く書きます。ただし、現場の案内を作ったからと、必要な規程や説明を省くわけではありません。それぞれの役割を分けて整えました。

本人に読んでもらうと、「この場合はどちらですか」という質問が出ます。それは説明が失敗した証拠ではなく、まだ曖昧なところが見つかったということでした。翌週に振り返り、案内を足すより先に、そもそも判断が経営者へ集まりすぎていないかを見直しました。

案内には、すぐ聞いてほしいことと、後でまとめてよいことも置きました。緊急という言葉だけでは判断しにくいので、実際に起きた場面を例にします。二人が同じ状況を思い浮かべられる方が、抽象的な説明を増やすより役に立ちました。

ひな型を疑う

以前、他社のひな型を急いで当てはめ、実際の働き方と合わない部分を残したことがあります。文書として整って見えることに、私も安心していました。

小さな会社では、制度の説明をする人と、日々の仕事を教える人が同じ場合があります。大きな組織を前提にした案内をそのまま置いても、書かれた相談先が実質的には経営者一人、ということも起こります。

今回は、法令上確認すべきことと、会社の中で決める運用を分けました。適用する範囲、見直す方法、社員へ説明する時期も確認します。ひな型を使うことが悪いのではなく、空欄を埋めた後、その会社で本当に動くかを見る必要がありました。文書を守らせる前に、使う場面へ戻るようになりました。

相談先として名前を書いた人には、実際にその役割を頼めるかを確認しました。案内の上だけで担当者を増やさないためです。

経営と労務を分けない

人を迎える相談は、労務だけで完結しません。給与や資金の見通しは税理士と、求人の伝え方は採用支援者と、役割や育て方は経営者と話します。それぞれ別の言葉で同じ仕事を説明すると、社員が混乱することもあります。

採用時には「幅広く任せます」と書かれていても、入社後は細かな確認が求められる。制度上は休めても、誰に仕事を渡すか分からず言い出しにくい。相談する相手を分けるだけでなく、説明がつながっているかを確かめました。

本人の情報を誰と共有するかも、先に確認します。仲間の専門家だからと、何でも話してよいわけではありません。私は労務の整理と説明を担当し、採用支援者には入社前に伝える仕事の実態を見てもらう。役割を明らかにした方が、経営者も相談を進めやすくなりました。

採用支援者と話すと、入社前に伝えた「相談しやすい職場」という言葉も見直すことになりました。仲が良いことと、仕事で確認する時間が取れることは別です。案内と実際の働き方をつなぐ話は、誰か一人の専門だけでは完結しませんでした。

採用前の相談を商品にする

この経験から、採用してから困ったところを直すだけでなく、採用前に「雇うと何が変わるか」を整理する相談を始めました。制度の一覧を渡す前に、最初の一人へ何を任せる予定かを聞きます。

最初は期間と範囲を決め、入社初月の案内を作り、一度振り返る小さな支援にしました。何でも相談できると言うより、今回どこまで一緒に整えるかを明らかにします。追加が必要なら、次の支援として話し合います。

経営者の中には、そこまで考えてからでないと雇えないのかと不安になる方もいます。完璧な準備を求めたいのではありません。初めから分からないことは、分からないと共有する。そのうえで、誰がいつ確かめるかを決める。後で聞きにくくなることを、採用前に会話へ出しておく仕事です。

仕事の話が増えた面談

その後の面談では、同じ確認を何度も繰り返す場面が減ったと聞きました。けれど、質問の数が少なくなること自体を、成功にはしませんでした。聞けなくなって黙っている可能性もあるからです。

社員は、案内を見て自分で進められたことと、まだ判断に迷ったことを話すようになりました。経営者も、質問の答えだけでなく、なぜそう決めるのかを説明する時間を取れるようになりました。話題が、手続きの確認だけから、仕事の考え方へ広がっていました。

すべてが順調だったわけではありません。忙しい日は説明が短くなり、また待つ時間が生まれます。そのたびに本人の理解力だけを問題にせず、確認の時間や任せる範囲を見直す。小さな調整を続けられたことが、最初に文書を納めた時との違いでした。

その社員が、次に加わる人へ説明するなら何を伝えたいかも聞きました。最初に不安だったことを覚えている人の言葉は、経営者の説明とは違います。教わる側だった人が案内に関わることで、文書も少しずつ、この会社のものになっていきました。

小さな組織の入口を整える

私は今、規程を作るときも、その外側でどんな会話が必要かを考えています。文書に書くべきことは、きちんと書く。ただ、それを読んだ人が実際の場面で判断できるかは、別に確かめます。

最初の社員を迎えると、経営者も初めて教える側になります。慣れていない二人が、遠慮と期待の間で働いている。その事情を知る採用支援者や他の専門家と組むことで、制度だけでは見えなかった入口を整えられるようになりました。

今は小さな組織が無理なく人を迎え、続けられる仕組みを支援しています。採用前でも、雇うと何が変わるかの整理からお話しできます。規程はあるけれど日々の判断が止まっている、という相談も、実際の一日を聞くところから始めています。

明日、自分の仕事に持ち帰るなら

顧客理解:ルールを作る目的と、現場の判断を助ける説明がつながっているか。

小さな実証:入社初月の場面を並べ、必要な案内と相談先を短い文書にしました。

仕事の境界:法令確認を前提に、適用範囲、改定方法、社員への説明時期を決めます。