採択後に止まる計画
申請書が採択されても、事業の準備が進まない相談がありました。知らせを受けたときは、相談者と喜びました。計画を形にし、ようやく始められると思っていました。
私は事業計画の整理を支援し、必要な資格業務などは専門家と連携しています。当時は、制度に沿って事業を説明することへ意識が向いていました。文章の根拠や計画のつながりを確かめる一方、採択後の毎月の動きは、経営者が進める部分として見ていました。
ところが、いざ準備を始めると、担当が決まらず、打ち合わせの日も取れません。見積りはあるのに、いつ何を払うかを細かく追えていない。申請書の中で成立している計画と、来月の会社で動く計画は同じではありませんでした。私たちは、喜ぶ地点を終点にしていたのです。
採択の連絡をした後、相談者から最初に届いたのは、喜びの返信ではなく「次は誰に何を頼めばいいですか」という質問でした。計画の中では役割を書いていたのに、本人の次の行動になっていない。そのずれを、私はそこで初めて実感しました。
AI事業者が漏らした本音
協業しているAI事業者から、「開発より、社内担当の時間を確保できるかが条件です」と聞きました。作るものが決まっていても、今の業務を説明する人、試す人、確認する人がいなければ進まないという話でした。
相談者の会社も同じでした。通常業務に加えて新しい事業を行うのに、計画には、担当者がそのために使う時間が十分に見えていませんでした。外注すれば社内の仕事がなくなると思われていた部分もあります。
私は開発の内容を詳しく聞く前に、誰が、いつ、何を確認するかを表にしました。担当者の名前を書いただけでは足りません。その人が今抱えている仕事も聞きます。別の専門の人が言った一言で、計画にある「実施体制」という欄が、ようやく普段の会社の予定とつながりました。
制作会社が知りたいことを相談者へ渡すと、回答には現場の確認が必要でした。経営者が一人で即答できる内容ではありません。確認の時間を予定に入れないまま日程だけを決めれば、どこかで無理が出ることが見えてきました。
補助金なしでも必要か
次に、資金の流れを月ごとに置きました。今回の計画で確認した支出と入金の見込みを並べると、入金前に必要な支出が、当初の想定より三百万円多いと分かりました。相談者がその時点で用意できる資金では、足りませんでした。
三百万円は、この架空の計画を確認して出た不足であって、どの制度にも必要な額ではありません。問題だったのは、採択された金額だけで安心し、支払う時点の手元資金を別に見ていなかったことです。
そこで、「補助金がなくても、この事業は必要ですか」と改めて尋ねました。やめるための質問ではありません。制度があるから増やしたものと、本来解決したかった課題を分けるためです。相談者が最初に変えたかった仕事へ戻ると、全部を同時に始める以外の考え方が見えてきました。
不足が分かったとき、相談者は、計画が全部だめになったように感じていました。私はすぐに大丈夫だと言わず、確定している条件と、まだ検討できるものを並べました。安心させる言葉より、何を確認すれば次を決められるかを共有したかったのです。
来月の行動まで分ける
計画を、来月に行うことまで分けました。誰へ確認するか、いつ支払いが必要か、社内の誰が時間を使うか。税理士には資金の見通しを、制作会社には実際の工程と費用を確かめてもらいます。
実施内容や時期を変えればよいと、その場で決めることはしませんでした。今回の制度の条件や必要な手続きについては、担当する専門家や確認先へ照会します。確認が済んだことと、検討中の案を分けて共有しました。
資金を調達できると勝手に見込むことも避けました。用意できる額と、まだ確定していない額を分けます。計画の表を細かくしたかったのではなく、進めるために何が足りないかを、関係者が同じように見られる状態へ変えたかったのです。
打ち合わせの後は、各担当が次に返すものと、確認する時期を短く残しました。同じ計画を見ていても、誰かが動くと思って全員が待つことがあります。連携先の数を増やすより、その待ち合わせを減らすことが必要でした。
不採択でも残るもの
別の相談では、不採択になった後も、整理した優先順位が残りました。相談者は、すべてを一度に実施する代わりに、自己資金で小さく始められる範囲を検討できました。
不採択でも価値があった、と簡単に言い切りたいわけではありません。申請には時間も費用もかかります。期待していた計画が進められない残念さもあります。ただ、申請する文章のためだけに考えた計画でなければ、その検討を次の判断へ使うことはできます。
私は、制度名を決める前に、今何を変えたいのかを聞くようになりました。採択された後にも、不採択だった後にも、事業を続ける人は同じです。その人の仕事に残る整理であることを、最初から支援の中へ入れたいと思いました。
採択を約束しない営業
以前、可能性を強く伝えすぎて、採択を期待させてしまった反省があります。前向きに動いてもらいたい気持ちがあっても、こちらで決められない結果を近く見せるべきではありませんでした。
今は公募要領など、その案件で確認する資料を基準に話し、採択や入金時期を保証しません。事業計画の整理と、書類作成や提出を担当する業務は、必要な資格や権限を確かめたうえで分けます。本人が確認し、行うことも明らかにします。
紹介で来た相談でも、費用と支援範囲を曖昧にしません。知り合いの成功例が、そのまま今回に当てはまるとは限らないからです。申請を急がせるより、見送る理由も説明できる相談に変えました。話を聞いた結果、今は申請しないという判断もありました。
実行できる条件を売る
税理士、行政書士、制作会社と組むときは、全員に同じ相談を投げるのではなく、確認してほしい論点を分けます。計画を一緒に考えることと、それぞれの専門判断の責任は、混ぜないようにしています。
相談者へ渡すものも、立派な文章だけではなくなりました。月ごとの行動と資金、未確定の条件、次の確認先。その内容を本人が自分の言葉で説明できるかを確かめます。
初めの小さな支援では、現状整理と、実行できる条件を見える形にする範囲へ価格を付けました。似た悩みのある人にも話を聞き、何が役立ち、どこは支援が要らないかを見直します。申請数を増やすことより、実際に使える計画を残すことへ、私の仕事の重心が移りました。
支援先が自分で説明できない数字は、そのまま計画の見栄えに使わないようになりました。根拠を話せないままでは、実施中に条件が変わっても判断できません。提出するための文章と、経営者が使う計画を離さないことを意識しています。
制度より先にある事業
採択の知らせは、今でもうれしいものです。ただ、その後に必要なお金と時間が見えているかを、先に確認するようになりました。成果の報告より、次の予定を話せることを大事にしています。
AI事業者から担当者の時間を教わり、税理士から支払う月の見方を借り、他の専門家と手続きの確認を分ける。一人で申請書だけを見ていたら、抜けたままだった条件がありました。人とのつながりは、制度を通す近道ではなく、計画を現実へ戻すために役立ちました。
今は制度ありきではなく、事業の目的と実行条件から計画を整えています。申請するか迷っている段階でも、使う意味から確認できます。まず変えたい仕事があり、そのために何が必要かを考える。そこからご一緒しています。
明日、自分の仕事に持ち帰るなら
顧客理解:補助金がなくても必要な事業か、採択後の資金と人員を用意できるか。
小さな実証:計画を月ごとの行動へ分け、自己資金と通常業務への影響を確認しました。
仕事の境界:公募要領を基準に、採択や入金時期を保証せず、代行範囲と本人確認を明らかにします。
